近年、日本各地で地震や台風、豪雨などの自然災害が頻発しています。
これらの災害は、私たち人間だけでなく、大切なペットたちにも大きな影響を与えます。災害が起こると普段とは違う状況のため、人間にとっても、もちろんペットたちにとっても大きなストレスとなります。
災害が発生した時、大切なペットをどのように守れば良いのか?普段から準備しておくべきものは何なのか?これらの問いに答えるため、本記事では災害時のペット対策について詳しく解説していきます。
ペットと災害をめぐる現状
ペットとの災害対策は、単に動物のケアだけの問題ではありません。過去の災害経験から、ペットの存在が飼い主の避難行動に大きな影響を与えることが明らかになっています。「ペットがいるから避難できない」という状況が、これまでの災害で多く報告されています。
例えば、2019年の台風19号では、マンションの1階に住む方が、氾濫により4匹の猫と共に亡くなりました。また、2024年の能登半島地震では、自宅が倒壊した被災者が、ペットと共に避難はできないと考え、自宅横の納屋で生活していたところ、火災により二次災害で命を落とすという痛ましい事態が起きました。
これらの悲劇は、適切なペット同伴避難の体制が整っていれば、防げた可能性があります。避難所でのペット受け入れ態勢の不備、ペットとの避難に関する情報不足、飼い主の避難判断の遅れなど、多くの課題が浮き彫りになっています。
災害時に必要になるもの
私たちが緊急時の持ち出し袋を準備しているのと同じように、ペット用にも緊急時にすぐ持ち出せるよう準備しておくべきものがあります。
もちろんペットの種類、それぞれの個性によって必要になるものは違いますが、一般的に必要とされるものについてまとめました。
キャリーバッグ、ケージ
犬・猫に限らず、どんなペットを飼っている場合にも必要になるものです。もし避難所などへ向かう場合、普段の散歩のようにリードを着けて行く、抱きかかえて行くというのは緊急時にはほぼ困難です。
災害時にはペットも興奮状態にあります。興奮状態のペットを素早く避難させることができるよう、そして逃げ出してしまうことのないようにしっかりと鍵のかかるタイプのものがおすすめです。入ることを嫌がらないよう、普段から慣れさせておくことが重要です。
ご飯と水
災害が発生し、ストレスを感じている状態では食欲を無くしてしまうペットも多いです。そんな時、普段と違うご飯をあげようとしても食べてくれない可能性が高いです。
避難所の備蓄にペットフードなどのペット用品は用意されていません。
病院で指定された食事しか食べられない、好き嫌いがあるといった場合に限らず、飼い主の義務として用意しておくようにしましょう。量は1週間~2週間分を目安に用意しましょう。
水に関しては人間用の飲料水をあげても基本的には問題がないと思われますが、尿結石などのリスクがあり水にも気を配る必要のあるペットの場合には専用の水を準備しておきましょう。
ドライフードとウェットフードのどちらも用意することをおすすめします。
保存性を考えるとドライフードの方が長持ちするので便利ですが、普段と違う環境になったことでペットが水を飲まなくなってしまった場合、ウェットフードがあると無理なく水分を与えることができますので便利です。
リードやハーネス
犬や猫を飼っている場合、ケージから出す際には必ずリードやハーネスを着用しましょう。他に避難している方の中には動物が苦手だという人もいます。迷惑がかからないように配慮することが大事です。
排泄物を入れる袋
長期間の避難生活になる場合、ペットの排泄物の処理についても問題になってきます。防臭袋など匂いが漏れないタイプの袋を用意しておくと良いでしょう。ペット用ウェットティッシュ・ペットシーツ・新聞紙なども利用して清潔感を保つように心がけましょう。
その他にあると良いもの
普段から使っているタオルやおもちゃ、おやつなども用意しておくとペットを安心させるのに役立ちます。その他、薬や医療グッズが必要な場合には忘れずに準備しましょう。
ペットの命を守れるのは飼い主だけです。いざという時に慌てないよう日頃から備えておくことが重要です。
災害に備えて出来ること
持ち出し品を準備する以外にも普段から出来ること・やっておくべきことがいくつかあります。
普段の暮らしの中での防災
ペットの過ごす部屋に倒れやすいものなどを置かない、すぐにキャリーバッグに入れることができる状態にしておく、興奮した状態のペットが暴れても怪我をしないようにしておくなど、災害時を備えた部屋づくりをしておくことも防災につながります。
しつけ・健康管理
噛み癖がある、無駄吠えが多い、飼い主の指示に従わない。このようなペットは災害時にも手がつけられない状態になってしまいます。
しつけのきちんとできているペットであれば避難所でも受け入れてもらえる可能性がありますが、わがままの過ぎるペットは他の方に迷惑をかけてしまうことも考えられるので入ることを断られる可能性も高いです。
また、狂犬病など感染症の予防接種をしっかりと受けておくなどといった健康管理も日頃からしっかり行っておきましょう。
ペットたちが「飼い主といれば安心」と思ってくれるよう、普段から信頼関係を築いておくことが重要です。
迷子防止のための対策
災害時、ペットが迷子になってしまうケースはとても多く報告されています。どこかで無事に保護されたとしても、飼い主が特定できず最悪の場合そのまま処分されてしまうといった悲しい例もあります。迷子札など身元が分かるものの着用、マイクロチップの装着をしておくなどで対策ができますのでぜひ行いましょう。
避難所・避難ルートの確認
ペットがいる場合の避難は人間だけの場合とは違ってきます。例えば複数のペットがいてケージをいくつも持っていく必要がある場合、徒歩での避難は難しいかもしれません。
そういった場合には車での避難を検討するかと思いますが、避難所までの道のりで道路が分断されてしまいそうな箇所はないか、混み合いそうな箇所はどこかなどと前もって確認しておく必要があります。
地域での避難訓練などがある場合、可能であれば実際にペットを連れて行ってみるのも良いですね。
ペットがいる場合の避難所の対応
避難所でペットと一緒に過ごすことができるかどうかは避難所ごとに対応が異なります。避難所までペットを連れて行くことができても、避難所では人とペットが違う空間で過ごす(同行避難)と避難所でもペットと一緒に過ごすことができる(同伴避難)とがあります。
同行避難と同伴避難については後ほど詳しく説明いたします。
未だに多くの避難所では同行避難までしか認められておらず、同伴避難のできる避難所はまだまだ少ないのが現状です。大事な家族でもあるペットと一緒に過ごすために車中避難や危険の残る自宅に待機することを選ぶ方も多く、「エコノミークラス症候群」や被災のリスクが高くなってしまっています。
「同伴避難可能な避難所」だからといって、ペットと一緒に過ごせるわけじゃないかもしれない、別室で過ごす可能性があると理解しておくことも大切です
ペットも大切な家族なのに、避難所で不自由な思いをするのはおかしい!と思ってしまいそうですが、動物のアレルギーを持っている方や抵抗力の弱い新生児などを含め様々な人が避難してくる避難所。避難所側としてもペットを人間が同じ空間で過ごすことを許可できない事情があります。
今すぐにこういった問題を解決することは難しいことですが、飼い主として今できることは「ペットを飼っていない人にも理解してもらえるよう歩み寄ること」なのではないでしょうか。
そのためにも、しつけをしない、災害時の準備をしないなどといった無責任な飼い方はせず、日頃から周囲の理解を得られるように努めましょう。
ペットとの避難に関する認識の変化
ペットとの災害対策に関する認識は、過去の大規模災害を経て徐々に高まってきました。特に2011年の東日本大震災は、大きな転換点となりました。
東日本大震災からの教訓
東日本大震災、特に福島第一原発事故に伴う避難では、ペットを置いて避難した飼い主が自宅が警報区域となったことで帰宅が出来なくなりました。その結果、多くのペットが餓死したり、外に出られたペットも行方不明になったりしました。
この経験から、「同行避難の原則」が提唱されるようになりました。「ペットは家族の一員」という認識が広まり、災害時にもペットと共に避難することの重要性が認識されました。
熊本地震からの教訓
2016年の熊本地震では、「同行避難の原則」が一定程度浸透し、多くの人がペットと共に避難所に向かいました。しかし、新たな課題も浮き彫りになりました。
避難所側の受け入れ体制の不備や、ペット連れ避難者の一部が避難所を拒否されるなどの問題が発生しました。その結果、車中泊避難の増加や、テント泊での避難、ペットと共に自宅近くの公園などでの野営するといった被災者の方が増えました。
これらの経験から、同行避難と同伴避難の概念の違いが重要視されるようになりました。
同行避難と同伴避難の違い
同行避難とは
同行避難は、ペットを連れて危険な場所から安全な場所へ移動することを指します。これは避難先を避難所へ限定するものではなく、友人宅、ホテルなども含め、安全な場所への移動全般を意味します。
同行避難のメリットは以下の点にあります
- 飼い主とペットの生命を同時に守ることができる
- ペットを置いて避難することによる心理的ストレスを軽減できる
同伴避難とは
同伴避難は、避難所の敷地内でペットを飼育することを指します。しかし、「同伴避難可能な避難所」であっても、必ずしも飼い主と同じ部屋でペットを飼えるわけではないことには注意が必要です。
多くの場合には、ペット専用のスペースが設けられます。近年は、飼い主と同室で避難できる避難所も少しずつ増えてきていますが、まだまだ限定されています。
同伴避難にはいくつかの課題があります。
- アレルギーを持つ避難者との共存
- 鳴き声や臭いへの対策
- 衛生管理(特に排泄物処理)
- ペットのストレス管理
- 他の避難者との調和
これらの課題に対応するため、同伴避難への準備として、ペットのしつけ(特に無駄吠えの防止)、他の動物や人との社会化、ケージに慣れさせることなどが重要です。また、避難所のルールに関する事前の情報収集も欠かせません。
社会全体で取り組むべき課題
ペットとの災害対策は、個人レベルでの準備だけでなく、社会全体で取り組むべき課題も多くあります。
- ペット同伴可能な避難所の増加
現状では、ペットと同伴避難できる避難所が非常に限られています。自治体と協力し、ペット専用スペースの確保やアレルギー対策としての隔離エリアの設置など、受け入れ体制の整備が必要です。また、ペットエリアの設置や運営ガイドラインの作成、衛生管理マニュアルの整備、ボランティアの育成と活用なども重要な課題です。 - 啓発活動の推進
ペット飼育者向けの防災教育はもちろん、非飼育者への理解促進も重要です。講座やワークショップの開催、防災ハンドブックなどの配布などを通じて、ペットとの共生の重要性や災害時のペット対応への協力を呼びかけることが必要です。 - ペット用災害保険の普及
避難時の費用補償やペットの治療費用をカバーする保険の開発と普及も、今後の課題の一つです。これにより、飼い主の経済的負担を軽減し、より円滑な避難を可能にすることができるでしょう。 - ペット用防災用品の開発と普及
軽量で機能的な避難用品の開発や、長期保存可能な備蓄食品の改良など、ペット用の防災用品の開発と普及も重要です。これらの製品が広く利用可能になることで、より多くの飼い主が適切な準備をすることができるようになります。
災害後のケア
災害後のペットのケアも重要な課題です。ペットも人間と同様に、災害によるストレスや環境の変化によって心身に影響を受ける可能性があります。
- 心のケア
災害後、ペットにもPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような症状が現れることがあります。過度の警戒心や攻撃性、食欲不振や過食、睡眠障害、異常な鳴き声や震えなどの症状に注意が必要です。これらの症状が見られた場合は、獣医師に相談し、適切なケアを行いましょう。 - 健康管理
災害後は、平時以上に健康管理に気を配る必要があります。定期的な健康チェック(食欲、排泄、皮膚の状態など)を行い、怪我や体調不良の早期発見と対処に努めましょう。また、ストレス関連の症状(下痢、嘔吐、脱毛など)にも注意が必要です。 - 環境の再構築
自宅に戻った後も、ペットにとっては見慣れた環境が大きく変わっている可能性があります。ゆっくりと元の生活に戻すよう心がけ、安全な場所を確保し、ペットが落ち着ける環境を整えましょう。いつもの遊びやコミュニケーションを大切にすることで、ペットの不安を軽減することができます。
ペットと共に安全に暮らすために
災害はいつ起こるかわかりません。しかし、適切な準備と心構えがあれば、大切なペットと共に乗り越えることができます。
ペットは家族の一員です。彼らを守るのは私たち飼い主の責任です。同時に、ペットの存在が飼い主の命を危険にさらすことがあってはなりません。この記事を参考に、あなたとペットにとって最適な防災・避難計画を立ててください。
そして、いざという時に慌てることなく対応できるよう、定期的に計画を見直し、必要に応じて更新することを忘れずに。私たちが今できることは、ペットを飼っていない方々にも理解してもらえるよう、責任ある飼い主となることです。
日頃からのマナー向上と防災意識の高さが、将来的にはペットと共に安心して避難できる社会づくりにつながるのです。一歩ずつではありますが、ペットと人間が共に安心して暮らせる社会を目指して、今日からできることから始めていきましょう。