薬膳と聞くと、体には良さそうだけど苦い漢方薬を飲んだり、手に入りにくい食材を使った料理というイメージが浮かんでくるかもしれませんね。確かに、極めるととても奥が深い薬膳ですが、その入り口はとてもわかりやすいものです。

実は、毎日食べている食事も、組み合わせや食べる時期を考えるようになるだけで薬膳の考え方へと結びついていきます。いつも気軽に使っている食材が体にどのような働きをもたらしてくれるのか、その効果をより引き出すにはどうすれば良いのかを学んでいくものと考えると分かりやすいかもしれません。

この記事では、薬膳の基本的な考え方から日常生活での実践方法まで、幅広くご紹介します。健康や美容に関心がある方、食事を通じて体調を改善したい方はぜひ読んでみてくださいね。

「医食同源」の考え方

薬膳という言葉の中には「薬」という文字が入っています。これは漢方薬のような薬の入った食事という意味ではなく、どこにでもあるような食材にも薬と同じくらいの健康効果があるという意味合いだと考えましょう。

食事に気を配ることは病気を治療すること(医療)と源は同じだという医食同源という考えが薬膳のベースとなっています。日常的に体が必要としている食材を食べて健康を保つことが出来れば薬は必要ないという「薬食同源」という考え方もあります。

生薬や漢方薬を使った料理もあります
薬膳料理にはもちろん、漢方薬を取り入れた料理もあります。薬膳は中国の伝統的な医学をベースに考えられているので、漢方薬や日本では手に入りにくいような生薬を使った料理まで。

深く知れば知るほど難易度は上がっていきますが、まずは近所のスーパーで手に入るような食材でできる料理でも十分です。難しい料理は薬膳の面白さにハマりだしてからぜひ挑戦してみてくださいね。

薬膳の考え方

薬膳をはじめ、東洋医学では陰陽五行理論を食養生や病気の治療の原則としています。陰陽五行理論とは「陰陽論」と「五行学説」の2つが結びついたものです。それぞれを簡単にご紹介します。

陰陽論

陰陽とは簡単に言うと光と影のことです。夜と朝のイメージと言うと分かりやすいでしょうか。中国では世の中のすべてのものは「陰と陽」とで出来ているという考えがあります。体を巡っている気や食材ももちろん、陰と陽とで出来ています。

体の状態が陰か陽のどちらかに偏ってしまうと不調へと繋がります。つまり、陰陽のどちらにも偏っていないバランスの取れた状態が理想的であると言えます。陰と陽の関係は、どちらが強い・弱いという関係ではなくお互いを助け合い・抑制しあうことで釣り合いを取ります。

例えば、夏は陽の気が強くなる季節です。体が暑くなるので冷たいものが欲しくなりますが、エアコンで体が冷えがちなこの時期に冷たいものばかり食べていると、体の中の陰の気が強くなりすぎて不調を招く可能性があります。

逆に、冬は陰の気が強くなる季節なので、温かい食べ物を積極的に摂ることで陽の気を補い、バランスを整えることができます。

五行学説

自然界のすべてのものは次の5つのもので構成されるとされています。

  • 木=植物、肝、酸味
  • 火=熱、心、苦味
  • 土=土壌、碑、甘味
  • 金=鉱物、肺、辛味
  • 水=液体、腎、鹹味(塩味)

臓器や味など大まかな分類を記載しましたが、これと同じように全ての食物も五行に分類されます。
全ての臓腑器官は食物の五味(酸味・苦味・甘味・辛味・鹹味)によって養われているので、体の健康を維持するには五味をバランス良く摂り、臓腑器官をまんべんなく養う必要があります。

例えば、肝臓の調子が悪い時は「木」に属する食材を積極的に摂ることで改善が期待できます。小豆・柑橘類・梅などの食材がこれに該当します。

体がいい状態を保てるようにバランスを取る

上記の図を見ると分かるように、五行は互いに活性化させ合ったり働きを抑える効果を持ちます。

例えば、ストレスで肝臓の働きが過剰になっている場合(「木」の気が強すぎる状態)、「金」に属する食材を摂ることで抑制効果が期待できます。

和食は薬膳の視点でも理想的?

和食に基本はよく一汁三菜と言われます。ごはんの他に 汁物1つ、肉や魚といった主菜1つ、煮物や酢の物・漬物といった副菜2つで構成されることが多いですね。ここに日本茶が加わると、自然と五味のバランスの取れた食事になっていることが多いです。

元々ヘルシーなイメージが強い和食ですが、実は薬膳の視点で見ても効率よく健康になれるような作りになっていたのですね。

旬のものを食べるだけでも良い

とは1年のうちでその食べ物が最も美味しいとされる時期のことを指します。旬の時期は魚には脂が乗っていたり、野菜や果物でも旨味をつよく感じたりと他の時期よりも美味しく感じることが多いですね。新鮮で安く手に入りやすいのも旬の食材の特徴です。

実は、この旬の食べ物を積極的に食べることも食養生に繋がります。例えば夏野菜であるトマトやきゅうりなどは体を冷やす効果があり、夏に火照った体のバランスを整えるのに役立ちます。反対に冬が美味しい根野菜には体を温める効果があり、冷えた体のバランスを整えます。

以下に、季節ごとの代表的な旬の食材と、その薬膳的効能を紹介します:

花粉症に悩まされる人も多いこの季節。また、環境の変化により自律神経の乱れや胃腸のトラブルも多くなります。

  • 菜の花やふきのとう:解毒作用があり、肝機能を高める
  • じゃがいも:疲労回復効果があり、胃を元気にする
  • グレープフルーツ:気の巡りを良くして、胃の調子を整える

冷房や冷たいものの食べすぎで湿邪と冷えによる負担が大きい季節です。五臓の「碑」がダメージを受けやすく、食欲不振などの影響が出てきます。

  • トマト:体を冷やし、むくみを取る
  • きゅうり:利尿作用があり、水分代謝をよくする
  • とうもろこし:エネルギーとなる気を補い、むくみを解消する

気温の低下と乾燥が進むので、肌の乾燥や咳といった不調が起こりやすくなります。気圧差から頭痛に悩む方も。

  • そば:消化を促し、食欲を回復させます。胃もたれにも効果があります
  • ぶどう:肺を潤し、疲労回復に効果がある
  • 小松菜:便秘やイライラにも効果があります

  • 大根:消化を助け、痰を取る
  • かぶ:体を温め、風邪予防に効果がある
  • ねぎ:体を温め、発汗作用がある

このように、旬の食材を意識して取り入れることで、自然と季節に合った体調管理ができるのです。

食養生とは

健康の維持や体質改善を目的して、自分の体質や体調に応じた食事を摂ることを言います。食べ物を使っての療養なので、既に病気になった人だけでなく健康な人も健康維持のために活用することができます。

土地のものを食べる

それぞれの土地には郷土料理など、その土地にちなんだ食材や料理があります。昔ながらの手法で作られた料理には先人の知恵がたくさん詰まっています。寒い地方では温かい料理で身体を温めてくれる料理、温かい地方ではひんやりとした料理で涼をとる知恵など。

その地域で生きていく上で、その土地の旬のものを食べることは健康を保つ術となります。これは、薬膳の考え方とも深く結びついています。地域の気候や環境に適応した食文化は、自然とその土地に住む人々の健康を維持する役割を果たしてきたのです。

例えば:

  • 北海道:寒冷地のため、体を温める食材(ジンギスカン、石狩鍋など)が多い
  • 沖縄:亜熱帯気候のため、体を冷やす食材(ゴーヤーチャンプルーなど)が多い
  • 長野県:高地のため、保存食(味噌、漬物など)が発達し、腸内環境を整える効果も

このように、その土地の気候や環境に適した食文化は、自然と薬膳の考え方を取り入れたものになっているのです。

日常生活に薬膳を取り入れる方法

  1. 五味を意識する;毎食、五味(酸味、苦味、甘味、辛味、塩味)をバランスよく取り入れるよう心がけましょう。例えば、主菜に加えて、酢の物(酸味)、苦みのある野菜(苦味)、根菜(甘味)、生姜や唐辛子を使った料理(辛味)などを組み合わせます。
  2. 季節の食材を使う:旬の食材は自然と体に必要な栄養素を含んでいます。季節の変わり目には、新しい季節の食材を積極的に取り入れましょう。
  3. 体調に合わせて調整する:疲れているときは消化の良いものを、冷えを感じるときは温かい食べ物を選ぶなど、その日の体調に合わせて食事を選びましょう。
  4. 調理法を工夫する: 蒸す、煮る、炒めるなど、調理法によっても食材の性質が変わります。例えば、生で食べると体を冷やす食材でも、煮込むことで温性に変わることがあります。
  5. 発酵食品を取り入れる: 味噌、醤油、酢、漬物などの発酵食品は、腸内環境を整え、免疫力を高める効果があります。日本の伝統的な調味料や保存食は、薬膳の観点からも理想的な食品と言えます。

まとめ

薬膳は「自分の身体がどんな状態であるのか」見極めることから始まります。熱を持っているのか、冷えているのかだけに留まらず、疲れている臓器はないかなど身体の声に耳を傾けてみてください。

崩れたバランスを元に戻すためには何を食べればいいのか。具体的な食材についてはぜひ調べてみたり本を読んでみてくださいね。薬膳の知識を深めることで、自分の体調管理に役立てることができます。

薬膳は決して難しいものではありません。むしろ、日本の伝統的な食文化とも共通点が多く、私たちの日常にすでに根付いているとも言えるでしょう。旬の食材を使い、バランスの取れた食事を心がけることが、薬膳の基本です。

日々の食事を少し意識するだけで、体調の改善や健康維持につながります。薬膳の考え方を取り入れ、食事を通じて自分の体と向き合う生活を始めてみませんか?